肩こり痛・腰痛
監修:原宿リハビリテーション病院 名誉院長 林 𣳾史 先生
肩こり痛や腰痛は、日常の何気ない動きが原因で起こる、非常に身近な痛みの一つといえます。生活習慣の改善やマッサージなど、日常の心がけや日々のケアで痛みを予防・軽減する方法もありますが、つらい時は鎮痛薬で痛みを抑えるのも一つの方法です。
『肩こり痛』とは
肩こり痛は、頭・首・肩・背中のあたりに感じる、痛み・重さ・張り・硬さなどの自覚症状の総称です。肩こりが肩の筋肉の血行不良であるということはよく知られていますが、その血行不良の原因はさまざま。ほとんどの場合は、筋肉の使いすぎ、また筋力の低下によって起こります。
肩こりのメカニズム
肩こりは、腕や手にしびれの出る頸肩腕(けいけんわん)症候群の症状としても現れます。肩は体重の1/10近い重さを占める頭と腕を支えているため、負担がかかりやすい部位です。車の運転やデスクワークなどで長時間同じ姿勢を続けたり、寝転んで本を読むなどの無理な姿勢をとったりすることで肩の筋肉に負担がかかり、疲れて乳酸という疲労物質がたまります。すると、筋肉が硬くこわばって血管を圧迫し、血行が悪くなります。これが肩こりの第一段階で、この時点で肩を叩いたり、ストレッチを行なったりするなどして筋肉の緊張をほぐして血行をよくすれば、疲労物質は血流に乗って取り除かれ、肩こりは解消されます。
肩こりの主な原因
- 姿勢
長時間のデスクワーク、肘まくらでの体勢など不自然な姿勢など。
- 体型や体質
猫背、なで肩など。
- 肩以外の異常
肺や心臓、胃腸や肝臓などの疾患からくるもの、貧血や低血圧、歯のかみ合わせが悪いなど。
- 生活環境
強い冷房、枕や寝具の硬さが合っていない、メガネの度が合っていない、精神的ストレスなど。
- 老化
四十肩、五十肩など。
肩こり痛の対処法
肩こり痛の痛みを和らげるためには、肩全体を温める、半身浴でゆっくり入浴する、マッサージやツボの刺激をする、ストレッチをするなどが効果的です。運動不足、筋力の低下、姿勢の悪さなどに起因するものが多いため、日頃から筋トレ、適度な運動、ストレッチなどを積極的に取り入れると予防や改善につながります。
市販の貼り薬や塗り薬を使用したり、鎮痛薬を服用したりするのも一つの方法ですが、あまりに痛くてがまんできない時や、腕や手にしびれが出るようなひどい肩こりが長期間続くような場合は、整形外科の診療を受けることをおすすめします。
『腰痛』とは
腰痛は人が4本足の動物から進化し、2本歩行になった時から始まったとされ、人間の宿命といわれています。地面に垂直に立った人の背骨は、重たい頭や胴体など上半身にかかる重力のすべてを支えなければなりません。立っているだけでも腰に負担がかかるのに、少し前屈の姿勢をとったり、重い物を持ったりすると、さらに負担が大きくなります。このように、常に重力にさらされている背骨が、悲鳴を上げた状態が腰痛です。
腰痛のメカニズム
背骨は一本の長い骨ではなく頸椎や胸椎など短い椎骨24個が巧妙に連結して構成されています。これらをつなぐクッションの役割を果たしているのが椎間板です。頭の方から7個の「頸椎」、12個の「胸椎」、5個の「腰椎」、そして「仙骨」と「尾骨」に分類され、このうち「腰椎」部分が腰にあたります。これは体の要となる重要な部分で、座る、立つ、歩くなど、ほとんどの行動は腰を起点に行います。背骨はとても複雑な構造であるため、ほんの小さな歪みが生じただけでも不調の原因になりやすいのですが、その多くが腰痛というサインになって現れます。
腰痛の主な種類
腰痛には、鈍痛が続く慢性的なタイプと、突然動けなくなるほどの激痛に襲われる急性的なタイプがあります。またその原因も、姿勢の悪さ、激しい運動や労働による疲労や損傷、老化、脊髄神経の異常、内臓や全身性疾患、心因性のストレスなどさまざまです。ここでは、腰痛の代表的な症状とその原因をご紹介します。
- 一般的な腰痛(慢性筋肉性腰痛症)
腰の骨を支える筋肉や靱帯(じんたい)に疲労がたまった状態です。軽い症状なら、比較的早く回復しますが、筋肉の疲労が積み重なると、腰の筋肉がこわばってうっ血し、鈍い痛みを常に感じるようになります。これが慢性筋肉性腰痛症です。また慢性筋肉性腰痛症は『筋肉痛』の仲間です。
- ぎっくり腰(突発性腰椎捻挫)
ぎっくり腰とは、膝を曲げずに重い荷物や物を持ち上げたり、急に体をねじったりした時、あるいは十分な準備体操なしで激しい運動をするなど、腰に急な負担をかけた時に痛みを感じるものです。直接の原因は、大きく分けて2つあります。まず、腰椎の周辺にある関節包や靱帯、椎間板(椎骨にかかる衝撃を和らげるクッションのような役割を持つ軟骨)などを強く捻挫したり、大きく損傷したりした場合、何らかの急な動作が加わって背中から骨盤を覆っている大きな広背筋の一部か筋膜が切れたり、引っぱられたりした場合が考えられます。
- 椎間板ヘルニア(腰椎椎間板ヘルニア)
椎間板ヘルニア(正式名称=腰椎椎間板ヘルニア)は、外から何らかの大きな力がかかることで、腰椎部分の椎体と椎体の間にある椎間板に亀裂が入り、中の髄核が押し出され、それが脊髄神経(神経根)を圧迫して激しい痛みを引き起こす病気です。痛みは腰だけでなく、臀部から足にかけてひどい痛みやしびれを感じる坐骨神経痛などの症状を伴い、筋力の低下などを起こすのが特徴です。ひどい場合は排尿ができなくなることもあります。
長時間の座り仕事や運転、運動など、背骨に負担をかけている日常生活、椎間板の老化(20歳を過ぎると徐々に老化します)、姿勢の悪さによる骨盤の歪みなどがある状態で、急に腰に大きな力が加わることが原因となります。
- 腰部脊柱管狭窄症(ようぶせきちゅうかんきょうさくしょう)
腰部脊柱管狭窄症は、生まれつき脊柱管が狭い場合もありますが、椎間板や椎間関節の老化、変形などにより、脊柱管が狭くなり、脊柱管の中を通っている神経が圧迫されることで痛みやしびれが起こる病気です。40〜50代以上、特に高齢者に多くみられ、女性より男性にやや多いのが特徴です。立って腰が伸びた状態の時に痛みやしびれが強く、背筋を伸ばして歩くと、腰から足の裏にかけて痛んだり、足のしびれを感じたり、足がもつれたりするのが一般的な症状で、朝や寒い季節に多く現れます。悪化すると、背中を丸めて寝ないと痛くて眠れなくなるほどになります。
- 変形性脊椎症
変形性脊椎症は、椎間板の老化によって上下の脊椎の骨が変形することで引き起こされ、周囲の筋肉・靭帯も弱くなり、腰椎を支える筋肉がこわばって、動作をする時に痛みを感じる病気です。発症は一般に40歳以後で、若い頃から重労働に従事してきた人や激しいスポーツをしてきた人に多く見られ、椎間関節の老化、椎間板症、脊椎体からの骨棘による圧迫などが痛みの直接的な原因と考えられています。体を動かしていると痛みが軽減してくる特徴がありますが、疲れがたまると再び痛みが出てくるので、決して無理をしないことが大切です。
- その他の腰痛
転んだり、事故に遭ったりなどして、外部から衝撃を受けた後の腰の痛みには注意が必要です。特に高齢の人の場合、打撲だと思っていたら実は骨にヒビが入っていたり、骨折していたりというケースもあります。安静にしていても痛む時や、患部に熱がある、痛みが長引くというような場合は整形外科の診察を受けることをおすすめします。
また、腰痛は腰そのものの問題ではなく、内臓などの疾患によって引き起こされることもあります。これらの痛みは、鈍痛となって慢性的に起こることがほとんどです。泌尿器科疾患などのほか、悪性腫瘍の転移などの可能性もありますので、やはり腰痛が長引く時や、寝ている時に痛みがひどくなる場合などは、軽視せず医師の診察を受けましょう。
腰痛の対処法
つらい腰痛を少しでも和らげるために、痛みの症状に応じた対処法をご紹介します。
- 急性的な腰痛で、動けなくなった時の対処法
腰痛が出たら、腰に負担がかからないようにできるだけ横になりましょう。ただし、横になるのも痛い場合は無理をせず少しずつ動き、できる範囲で一番楽な体勢を取り、痛みが少し治まってから、ゆっくり、楽な寝方で横たわってリラックスするとよいでしょう。この時、腰を回したり、動かしたりしないようにし、腰の筋肉に負担をかけないようにしましょう。さらに痛む部分を冷やす、コルセットやさらしで保護するなども効果的です。また、鎮痛薬で痛みが少しでも軽減すれば、大分楽になるのではないでしょうか。
- 慢性的な腰痛の対処法
激痛ではないが、慢性的に腰が重たい、あるいは腰にだるさを感じる場合の対処法です。まずは腰に負担をかけないようにし、腰を温めるようにします。ゆっくり入浴するのもいいでしょう。無理のない範囲で、ストレッチやマッサージ、ツボ刺激を行うのも効果的です。またこの場合も、鎮痛薬で痛みを和らげるのも方法の一つです。